ヤギ太が2歳になって間もない頃。
クマ子は、ヤギ太のお父さんと離婚した。
その後しばらく、誰も信じられなくなり、今までの知り合いとの連絡を出来る限り絶ってしまった。
なぜなら…
こんな人生に失敗した自分なんて恥ずかしい。
いろいろと、根掘り葉掘り聞かれても、答えたくない。
これから、上手くやっていける自信もない。
…そう思っていたから。
この社会は、失敗した者、引かれたレールから脱落した者には、総じて冷たい。
…そう思っていたから。
確かに…
学生時代に留年したり、退学してしまったり、新卒で就職してすぐに辞めてしまったりしたら、中高年になって急にリストラされたりしたら、
やっぱり、巻き返すのは大変だ。
人間はとかく、変化が怖い生き物だと思う。
それは、大昔の狩猟時代、日一日生き延びれるかどうかだった時代から受け継がれているDNAの名残なのだろうか。
そうやって、「危険だ!」と本能に刻み込まれていることを、大丈夫…って思えるまでは、とても時間がかかる。
大人になろうとも、親になろうとも怖いものは怖い。
もしも、ヤギ太がいなかったら、この時私は、すべてのことから逃げ出していたかもしれない。
でも、逃げるわけにはいかなかった。
なぜなら、私にとってヤギ太は、自分自身よりも大事だからだ。
そこから仕事を探し、派遣社員を経て、正社員になった。
ヤギ太の父(とその家族)がらみで、私自身が背負うことになってしまった借金も、ヤギ太を育てながら、何とかして少しづつ返していった。
そんな事情だったから、もちろん養育費なんて払ってもらえなかった。
しばらく実家に住ませてもらった時期もあったし、私の両親には本当に、迷惑と心配をかけた。
そして、7年ほどかけて、やっと全額返済できた。
その後、2年ほどして、ようやく実家を出ることができた。
そうなって初めて、私は世間に目を向けることができるようになった。
失敗した自分を、他の人たちの力を借りながら、何とかして克服できたから…だったのだろう。
失敗を認めたくなかった、若かりし頃の自分。
けれど、本当にそれしか方法はなかったのかと、今は思う。
今の私なら、素直に失敗した自分を認めて、周りの人に相談すると思う。
なぜなら、失敗しない人間なんていないからだ。
もし、そんな完璧な人間がいたら、きっと怖くなってしまうだろう。
だから人は、自分の失敗を認めて、何とかして自力で再起しようとする人間に対しては、何とかして助けてあげたいと思うのだ。
もちろん中には、人の窮地に付け込んで、詐欺のような話を振ってくる人もいるだろう。
失敗した人間に冷たくする人もいるだろう。
でも、たいていの人は、自分が心を開けば、何らかの方法で、手を差し伸べてくれる。
クマ子は、それに気づくのに長い長い時間がかかってしまった。
悲しいかな、人間は、自分で経験しないと身につかない。
だから、今の自分は、過去の選択によって積み重ねられてきた自分だ。
いいことも悪いことも、全部が私の糧になっている。
この歳になって、今、この瞬間の自分が一番好きだ。
人間はたとえ失敗しても、生きてさえいれば、やり直すことはできる。
そのことに気づくことができたから、生きることが前よりラクになった。
たとえ今、昔の若い時分に戻してやる…と言われても、私は全力で拒否するだろう。
失敗もトラブルも、自分が乗り越えられないものはやってこない。
夜は、夜明け前が一番暗い。
それでも、必ず朝はやってくる。
寒い冬の後には、必ず花開く春が来る。
そのことが、本能に染み付いたから、もう怖くない。
やっぱりクマ子は、ヤギ太のおかげで強くなった。
だから、
ヤギ太から、父親を奪ってしまった負い目だけは、一生背負い続けようと思う。
どんな理由があっても、本当は私が乗り越えないといけなかったことだとは思っている。
そこからは、目を背けない。
私の意地なのかもしれないけど。
※金の切れ目は縁の切れ目…と言いますが、私の離婚理由もそうでした。
自分の父親と一緒に事業をしていた元ダンナは、実は仕事が上手くいっていなかったことを私に言えず、消費者ローンで借金して、私に給料を渡していたことが、ヤギ太が生後7か月の頃に発覚、その後、何とかして立て直そうとしましたが、次から次へと、元ダンナの父親が借金を作ってくる…!
助けようとすればするほど、私の貯金もヤギ太のための貯金も持っていかれ、このままではヤギ太のためにならない…と離婚を決意しました。
でも、私がもっと早く気づいて手を打っていれば…とか、もっと知識があったら…とかは思います。
今の自分なら、きっと回避できるでしょう。
失敗を認めたくない弱い私が、それをさせなかったのだと思っています。
その反動なのか、今は、弱み見せまくりんぐ天然クマ子…と化しております(笑)。
もっと早くこうなれたらよかったのに…
でもきっと、この期間が私には必要だったんでしょうね(;^ω^)遅ッ!